衝撃だった1970年の「奇想の系譜」
辻惟雄氏の「奇想の系譜」が出版されたのは、1970年半世紀前のことになります。当時小学生だった私は、そのサブカル的な美術に影響を受けました。高校生の頃に歌川国芳を発見し、一人悦に入り、大学生になっては、岩佐又兵衛発見し、世間的になんで無名なのか憤りました。
根が小理屈こねくり回すの大好き、1980年代文系大学生ですから、一般人及び知的な年配者が知らないことに、優越感を持ってものです。又兵衛も国芳も若冲も凄いのに、年寄りの美術愛好家は知らなーい。わくわくっ!
あれから早幾年、テレビの美術番組が、雑誌が、諸々のマスメディアが煽るので、美術好きな人は皆知っている事象となってしまいました。大がかりの美術展が開かれたり、画集が安く買えるの良いのですが、白昼に晒されるのは、ちょっと違うんじゃんないと感じています。奇想な絵画は精神的に不健康なところがいいんです。

奇想の系譜展
展覧会の構成、大作揃いで驚きました。
伊藤若冲、曽我蕭白、長澤芦雪、岩佐又兵衛、狩野山楽、白隠慧鶴、鈴木其一、歌川国芳の絵画が、作者別に展示されていました。画家の生年順ではなく、会場構成が優先される展覧会でした。
伊藤若冲からはじまりました。展示一作目は、「像と鯨図屏風」可愛い奇妙な象さんに釘付けです。若冲は発想が豊かな作品が多く、何を出されても驚かないと思っても、この象は好きです。初公開の「鶏図押絵貼屏風」は雄鶏と雌鶏の番が描かれた絵を六曲一双、十二枚貼った屏風でした。若冲の鶏としては「荒い」かなと思いましたが躍動感がありました。

伊藤若冲「像と鯨図屛風」https://kisou2019.jp/
曽我蕭白は、「雪山童子図」が圧巻でした。隣に展示された、「群仙図」共々色鮮やかで、今展覧会屈指の展示作でした。奇妙を通り越して不気味の域に達しています。不機嫌さが清々しい女性の立ち姿の「美人図」も心にしみました。
可愛すぎる子犬で、大人気の長澤芦雪。この展示の最初は、「白象黒牛図屏風」で、若冲の「象と鯨図屏風」の真上の階の同じ位置に展示されていました。感動しろよという見せ方が姑息すぎる。でも牛のお腹のところにいる子犬が可愛い。何処かユーモアがあります。可愛い子犬繋がりで、「降る雪狗図」雪なのに紅が透ける絵でした。
「なめくじ図」という小品がありました。薄墨でなめくじが這った曲線が描かれていて、なめくじがいる絵なのですが、ほんわかと感じました。

長澤芦雪「白象黒牛図屏風」https://kisou2019.jp/
岩佐又兵衛は、衝撃の「山中常盤物語絵巻」が登場、これでもかという執念の絵画です。当時お大名のお姫様が見ていたのだろうけれど、どう思ってっていたのか疑問なんです。岩佐又兵衛の個人的執着がなせる作にしか思えないのですが。極彩色よし白描画よしの、実力が迫ってきました。
この人も奇想の画家?と思ったのが、狩野山楽。奇想は画派がどうだろうか、師匠が誰だろうが、個人の気質に現れるもの。画題は極めてオーソドックスな狩野派が描くもの、狩野派のことは詳しくないのですが、山楽が狩野派にいたことは、狩野派の振り幅を広げた気がしました。
白隠慧鶴、禅画の巨匠です。この人も取り上げられていました。禅絵は詳しくないのですが、江戸時代の自由さが、こうした絵を描かせたのかしら?大きな「達磨図」初めから終わりまで、一定の太さの太い字で書かれた書、「南地獄大菩薩」が印象に残りました。
鈴木其一は、毎年季節になると根津美術館で展示される、「夏秋渓流図屏風」と本邦初公開の「百鳥百獣図」など何度見ても楽しい其一でした。
おおとりは歌川国芳で、有名な浮世絵が展示されていました。大型作品ということで、浅草寺の「一ツ家」成田山の「火消千組の図」の大型絵馬が展示されていました。ここは国芳の変な絵と有名な絵を網羅した展示となっています。
感想、奇想の系譜展は混んでいるなら見たくなかった!
「わたしゃ奇想の絵は、80年代から見ているのだ、混んだら見に行かない!」と思っておりましたが、twitterで夜の部は空いているというツイートがあり、見に行きました。週末に六時に会場に入りました。まさか空いていてゆっくり見れました。
「大学の部活の飲み会で、いつもの奴らに会いに行く!」という気分で、参ったのでありました。サブカル好きな、理屈っぽい連中との話は、楽しい。
曽我蕭白「群仙図」
今回一番面白かったのは、曽我蕭白「群仙図」でした。おどろおどろしい”仙人達”が描かれた屏風です。蝦蟇仙人の耳掃除をする麻姑、おっさん仙人にまとわりつく少女たち、そして変顔の熟女。これはですね、オジサンの「ありのままの、俺を好きになってくれよ。」という心の叫びだよね。女としては「あんたと付き合って、なんか得するの?」と人類が猿の頃から続く不毛の対応しかできません。
オジサンの心の叫びとして、曽我蕭白を見ると、合点がいくところがありました。「雪山童子図」の鬼が自信たっぷりで、その自信は鬼界では女性にもてる美男に見えてきました。この絵はふたりの美男子が相まみえる図か。表情が強張る女性像は、それでも女を貶められない曽我蕭白からのラブレターか。
曽我蕭白「群仙図屏風」
https://kisou2019.jp/
岩佐又兵衛 「浄瑠璃物語絵巻」
今回の目玉は牛若丸の母常盤御前が、無残殺害される「山中常盤絵物語」となっていました。実母を生後すぐ磔にされている、又兵衛のトラウマというか執念怨念の絵巻で、魅力があります。今回いいなと思ったのが「浄瑠璃物語絵巻」でした。これも牛若丸の物語で、奥州藤原氏の元下るとき、地方の有力者の娘、浄瑠璃姫を軟派する物語です。展示されていたのは、丁度姫のお屋敷に忍び、侍女たちを懐柔して、姫と思いを遂げるいいシーンでした。姫のお屋敷には金彩色が使われ、豪奢賢覧。現実にはあり得ないだろう室内です。家に帰って画集を観たら、この物語も牛若丸を追った、浄瑠璃姫が惨殺されるというストリーなので、又兵衛の闇は深いと感じ入りました。
鈴木其一、その視線が変。
江戸琳派の巨匠、酒井抱一の一番弟子、鈴木其一は何でも正面から捉えるという特徴があります。それ故に師匠の抱一のゴーストをやっても、見破られる画家でした。正面から捉えるのは、もう個人の努力ではなく、生まれながらの癖なんでしょう。それが気になる程、魅入られてしまいます。
根津・山種美術館のすでに見た作品もあり、展覧会はこうこなくてはいかんと思いました。これも本邦初、日本里帰りの「百鳥百獣図」がどんな動物が描かれているか露わになっていて、図鑑のように見えていて、ナチュラルな構図はやっぱり駄目なんだ、其一さん。これはこれでいおしいので、私は好きです。

鈴木其一「夏秋渓流図屏風」https://kisou2019.jp/
鈴木其一に言及しているブログ
鈴木其一江戸琳派の旗手展 2016年サントリー美術館 桜も撫子も萩の葉も正面向いています。

ここは鳥の楽園でしょうか?。江戸絵画への視線展 山種美術館

出光美術館 美の祝典Ⅲ江戸絵画の華やぎ、国宝伴大納言絵巻も見れます。。

江戸絵画への視線 山種美術館 おすすめ情報をブロガー内覧会で聞いてきました。

奇想の系譜 展 概要
奇想の系譜 展 江戸絵画ミラクルワールド
w e b: | サイト https://www.tobikan.jp/exhibition/2018_kisounokeifu.html 特設サイト https://kisou2019.jp/ twitter https://twitter.com/kisou2019 twitter混雑状況 https://twitter.com/kisoukonzatsu |
会 期: | 2019年2月9日(土)~4月7日(日) |
会 場: | 東京都美術館 |
休 館 日 : | 月曜日 2/12(火) 但し2/11(月・祝)4/1(月)は開館 |
開館時間: | 9:30~17:30 毎週金と3/23(土) (入館は閉館の30分前まで) |
入 場 料 : | 一般1,300円(1,200円)大学・高校1,000円(800円) 中学生以下無料( )内 団体 各種障がい者手帳お持ちの方は、本人と介護者一人まで無料 詳細はサイトで |
東京都美術館アクセス方法
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住 所 | 東京都台東区上野公園8-36 |
電 話 | 03-3823-6921(代表) |
入 館 料 | 無料 各展覧会に入場料がかかります。 |
開館 時間 | 9:30~17:30 特別展開催中の金曜日は20:00まで |
全館休館日 | 毎月第1第3月曜日(祝日振替休日の場合翌日) 特別展・企画展 毎週月曜日(祝日振替休日の場合翌日) 整備休館 1/11~18 7/9~16 年末年始 12/31~1/1 |
アクセス方法 webページ
JR上野駅 | 公園口 | 徒歩7分 |
東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅 | 7番出口 | 徒歩10分 |
京成線京成上野駅 | 徒歩10分 |
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