大国に負けない、ベルギーの芸術。
大国に挟まれた小国が、存在感を出すのは、ひとつは高い文化を持つことです。中世のフランドル時代からそれが成功している、極めて稀な国がベルギーです。絵画を見ているだけでも、隣国の大国フランスとも一線を画します。今回中世から現代まで500年時代差がある作品が、集められました。奇想の表現方法は違えども、ベルギー美術は、北海に面しているためか、通底に端正で冷たい印象を持ちました。
中世から現代までの変なの集めました、18世紀がない。
ボスの追随者、ピーテル・フリューゲル一世、ルーベンスから飛んで、ロップス、クノップス、アンソール、デルヴォー、マグリトと、ベルギーの美術史を俯瞰するというより、中世からのベルギー美術史の中で、笑えたり、オカルトだったり、幻想だったりする画家の作品を選んで紹介している構成です。シュルールレアリズムも少しあるぞ。
第1章 15-17世紀のフランドル美術
源流はボスでしょう。残念ながらボスの作品は今回一枚も来ていませんでした。その変わりボスのモンスターが、跋扈する追従者たちの楽しい絵画が展示されていました。ボスに比べると脇が甘いのですが、モンスターがカワイイ化していました。
ボスの死後、モンスター版画を描いて人気が出た、ピーテル・フリューゲル1世の版画の原画が出展していました。「七つの大罪」シリーズより「七つの徳目」が全然面白くなく、徳目なのに戦争をして阿鼻叫喚なのが面白かったです。バベルの塔展のタラ夫のいる「大きな魚は小さな魚を食う」なども来ていました。
フランドル絵画といえばルーベンスで、少し版画の展示がありました。ルーベンスは奇想といえるのかな、この人は正統過ぎる人です。画面構成がアクロバティックなのが奇想?

ヒエロニムス・ボス工房「トゥヌグダルスの幻視」ベルギー奇想の系譜展 http://fantastic-art-belgium2017.jp
第2章19世紀末から20世紀初頭のベルギー象徴主義・表現主義
18世紀をいきなり抜いて、19世紀に飛びます。
フェリシアン・ロップ、フェルナン・クノップス、ジェームズ・アンソールの絵画が、まとまって来ていました。ロップの「娼婦政治家」の原画がここの目玉のようです。アンソールは油絵の大きいものも含めて数枚ありました。
クノップスは幻想の画家で、自分の妹を写真に撮って、それを絵を描き続けるのですが、妹が結婚し中年になっても若いとき同じ顔に描き続ける、あっちに行っちゃった人です。ロップは社会と闘う人。
目指しているもの、画風、表現したいこと、おのおの別々なのに、表現したいことをキッチリ分からせる絵画です。分かり易いってお嫌いですか?
第3章 20世紀のシュールレアリスムから現代まで
日本でも人気のルネ・マグリットと、これぞ奇想の画家ポール・デルヴォーは、まとまって展示されていました。
現代美術は彫刻が出ていて、展覧会の流れとして変化があってよかったです。現代美術特有の分り易いのだけれど、答えがなくて鑑賞者に混乱させる、ないし分り易さを拒否の作品でした。ボス先輩をはじめとして、伝えたいことを全力で表現する意気込みがかつての画家にはありました。そういうのが現代美術では薄いです。
現代美術でも、基調として、先輩たちから受けずいた、フランドル・ベルギー気質があります。北海から冷たい風が吹き、重く垂れこめた黒い雲の屋外を、大きな窓ガラス越しに眺める感じです。
感想、ボスとボス追従者の、モンスターの運用法方。
バベルの塔展では「ボスモン」と称された、モンスターたちの扱いが、本家ボスと追従者では違うと思いました。「聖クリストフォロス」と同じ題材の絵があったので、比べてみました。
ボスは敬虔なカトリック教徒で、モンスターはその信仰の発露だとよく言われます。ボスとて若冲よろしく面白絵を発想、国芳よろしくモンスターを楽しく描いていたかもしれませんが、使い方が、厳しい感じがします。カトリック信者なのでモンスターで遊ばないぞ、モンスター厳密運用かな。
ボスの周辺の画家とか、ボスの死後に追従者が描く絵は、モンスター天こ盛り、キャラ化しています。ボスが偉大な画家といわれるのがよくわかります。
ボス モンスター 厳密運用
ボス追随者 モンスターのキャラ化
とでもいいましょうか。
ボスの「聖クリストフォロス」を見ると、キリストを背負い聖クリストフォロスが川を渡ったこちら側は、熊が退治されて平和な地、向こう岸は怪獣が人を襲う怖い地です。不思議なものが他にも描かれていますが、ボスが描くべきと考えたことしか描かれていません。
ボスの「聖クリストフォロス」の画像がなかったので、バベル展のタラ夫くんのTwitterから引用します。解説も読んであげて。
【ここがすごいぞ!ヒエロニムス・ボス④】
続いては、こちらも初来日の《聖クリストフォロス》。タイトルの通り、聖人伝をモチーフとした伝統的な宗教画…のようにみえますが、ただの宗教画に終わらないのがボスの面白さ!
ボスならではのモチーフもたくさんちりばめられています! pic.twitter.com/Gq2cW6JQ70— タラ夫@「バベルの塔」展公式 (@2017babel) 2017年3月5日
【ここがすごいぞ!ヒエロニムス・ボス⑤】たとえば画面左に注目してみましょう。猟師がクマを木に吊しています…悪魔を打ちう破ったことを暗示しているようですが、さらに遠くでは廃墟から顔を出すモンスターと逃げ惑う人が。危機は去っていないようにも見えます。何を意図したのか…謎は深まります。 pic.twitter.com/NgrZRi23hQ
— タラ夫@「バベルの塔」展公式 (@2017babel) 2017年3月6日
【ここがすごいぞ!ヒエロニムス・ボス⑥】もっと不思議なのは、画面右側にある大きな花瓶が刺さった木。花瓶にはハシゴがかかっていて、注ぎ口にはランタンを吊るすこびとの姿も。この画題では、ランタンでクリストフォロスの行く先を啓示する人の姿がよく描かれますが、それにしてもなぜこびとが!? pic.twitter.com/vfyXGw1jhf
— タラ夫@「バベルの塔」展公式 (@2017babel) 2017年3月6日
対してヤン・マンデンの「聖クリストフォロス」は、キリストと聖クリストフォロスはボスのをそのまま描いています。周囲にはこれでもかと、描き込みが多数です。一つ一つに意味があるのでしょうが、ボスのストイックな絵に比べると、楽しいそうですが落ちるよな。
版画も含めてボスもどきの絵は、ボスの死後勝手に描かれてものか思いきや、本店展覧会のキーヴィジュアルになっている、ヒエロニムス・ボス工房「トゥヌグダルスの幻視」の描かれている板を分析したところ、年代測定でボスの晩年でした。
ボスは工房の弟子たちが、モンスターをどんどん描いていくことを、認めていたということです。ボスはもしかしたら、自分の死後もボス工房をやっていくには、モンスターが強みになると考えたからかも知れません。一流派を率いた画家は弟子たちの行く末を心配したのでしょう。

http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/17_belgium/column.html
感想 ベルギーはクール!いや会場がクール!
ベルギーの画家は、アンソールをのぞき好きです。近代の画家ではデルヴォーが一番かな。久しぶりにデルヴォーを見て、個展でデルヴォーに浸りたいなーと思いました。
展覧会全体として、端正で静かで冷ややかな感じを持ちました、ベルギーは北にあって寒色系のベージューな絵が多いなーと印象を持ったところで、会場は作品保護のため、冷房が凄く効いていました。道理で寒いはずだ、Bunkamuraでベルギーの冬の寒さを体感しながら、会場を後にしたのでした

ルネ・マグリット「大家族」http://fantastic-art-belgium2017.jp
公式にデルヴォーがなかったので、マグリット、こちらも涼しい。
北方ルネッサンスの展覧会が大挙して来ます。
ベルーギー・オランダあたりの北方ルネッサンスが大好きでございます。近代の画家クノップフなどベルギーの近代の画家も好きです。今年はハプスブルク家のお抱えの画家で、人間の顔を花・果物・本などで描いた面白絵画で有名なアンチンボルトが、個展とパトロンのルドルフ2世コレクション展両方で見られます。来年にはブリューゲル一族が都美術に来ます。スケジュールを簡単に記しておきます。
バベルの塔展
2017年4月18日(18)~7月2日(日)東京都美術館
2017年7月18日(火)~ 10月15日(日)大阪国際美術館

アンチンボルト展 2017年6月20日(火)~9月24日(日)国立西洋美術館

ベルギー奇想の系譜
2017年3月18日~5月7日 宇津宮美術館
2017年5月20日~7月9日 兵庫県立美術館
2017年7月15日(土)~9月24日(日)Bunkamuraザ・ミュジアム

ルドルフ2世の驚異の世界展
2017年11月3日(金・祝)~12月24日(日) 福岡市博物館
2018年1月6日(土)~3月11日(日)Bunkamuraザ・ミュジアム
2018年3月21日(水・祝)~5月27日(日) 佐川美術館
ブリューゲル展画家一族150年の系譜 2018年1月23日(火)~4月1日(日)東京都美術館
2018年1月23日(火)~4月1日(日)東京都美術館
豊田市美術館 2018年4月24日(火)~ 7月16日(月・祝)
札幌芸術の森美術館 2018年7月28日(土)~ 9月24日(月・祝)
その後広島県・福岡県を巡回

真打登場!ルーベンス展
ルネッサンス・マニエリスムより時代が下りますが、バロック絵画といえばこの人、ルーべンスの展覧会がこの秋、あります。
ルーベンス展 2018年10月16日(火)~2019年1月20日(日)国立西洋美術館
お得情報
今回も東急グループ様の、御厚意により、展覧会の半券でお得になっています。
☆Bunkamuraのドゥマゴパリとロビーラウンジで、タイアップメニュー
☆隣接する東急百貨店本店で、半券サービスが受けられます。チラシがあります。レストラン・喫茶・デパ地下が多いです。
☆ル・パン・コティディアン 芝公園店・東京ミッドタウン店・東京オペラシティ店でコーヒー紅茶一杯サービス
それと忘れずに、
国立西洋美術館で開催中の、アンチンボルト展との相互割引で、100円引きです。
ベルギー奇想の系譜展 概要
ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで
w e b: | 特設サイト 美術館サイト内 http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/17_belgium/ Facebook https://www.facebook.com/fantastic.art.belgium2017/ insutagram |
会 期: | 2017年7月15日(土)~9月24日(日) |
会 場: | Bunkamuraザ・ミュージアム |
休 館 日 : | 7/18(火) 8/22(火) |
開館時間: | 10:00~18:00 毎週金・土曜日 21:00 (入館は閉館の30分前まで) |
入 場 料 : | 一般1,500円(1,300円)大学・高校1,000円(800円) 中学生・小学生700円(500円)( )内 前売り 20名以上団体 各種障がい者手帳お持ちの方は、提示で割引料金 詳細はサイトで |
巡回
宇津宮美術館 2017年3月18日~5月7日
兵庫県立美術館 2017年5月20日~7月9日
Bunkamuraザ・ミュージアム アクセス方法
webサイト: | http://www.bunkamura.co.jp/museum/ |
住 所: | 東京都渋谷区道玄坂2-24-1 |
電 話: | 03-5777-8600ハローダイヤル |
アクセス方法 webページ
渋谷駅利用
JR線 渋谷駅 ハチ公口より 徒歩7分
東京メトロ銀座線、京王井の頭線 渋谷駅より 徒歩7分
東急東横線・田園都市線、東京メトロ半蔵門線・副都心線 渋谷駅 3a出口より 徒歩5分
神泉駅利用
京王井の頭線 北口より 徒歩7分
渋谷駅・宮益坂口(東急東横店)⇔東急本店一階東口(Bunkamura)との循環バスが、
9:50~20:15の間に12~15分間隔で運転しています。東急百貨店アクセス

ベルギー奇想の系譜展 Bunkamuraザ・ミュージアム 看板
北方ルネッサンス



2017年8月30日初出
2017年9月17日加筆